打ち上げ花火の物語

「なずな、この手紙、三浦先生に渡しといてね」
「何よこれ。何の手紙!?」
夏休み、登校日、花火大会の日……。
及川なずなが人知れず春子先生へ渡した手紙は、
両親の離婚となずなの転校を伝えるものだった。
小学生、最後の夏。
休みが明ければ、もうそこになずなの姿はなくなっている。
クラスメイトには何の予告もなしに、母と共にこの海辺の町から消えてしまう。
昼、放課後、なずなの足はいつしかプールへ向かっていた。
そこにはクラスメイトの典道と祐介がプール掃除と称して遊んでいる。
そんな二人が50mを競うと言い出した時、
プールサイドに寝そべっていたなずなに、ひとつの計画がひらめいた。
「審判やってあげようか。ね、なんか賭けてんの?」
妙に答えをはぐらかした二人が、飛び込み台の上に立つ。
「よーい……スタート!」
なずなの手が鳴る。
典道と祐介、二人の勝負は、そのままなずなの賭けでもあった。
ゴールで待ちかまえたなずなは、勝者だけに、そっとささやく。
「ね、いっしょに花火見に行こうよ」
「へ? なんで?」
途惑う少年。
「なんでって……五時に迎えに行くからね」
半ば強引に決めたなずなは、水の中で唖然としている少年を残し、去ってゆく。
それは、かけおちへの密かな序曲となるはずであった。

夕方がせまる頃。
浴衣をまとったなずなは家出用に大きなトランクにロープを
付けてを引きずり、計画を実行すべく
少年を迎えに行きつつあった。